蔓草雑話

あの話、その話、話題は蔓草のようにのびて。

雨天休日

 いつものように5時に起床し、夜のうちに解凍させておいた安売りのブラジル産若鶏もも肉をたっぷりの油で焼いた。焼く前に黒胡椒・塩・バジルで揉み込んだので、フライパンに落としてそのまま放置し、ある程度焦げ目がついたところでひっくり返した。

 台所に肉のいい匂いがただよう。しかし、油断していると煙が充満してすぐに火災報知機が鳴ってしまう。「火事です 火事です カンカンカンカン!」火事じゃありません 火事じゃありません 落ち着いて報知器を消さなくてならない。

 

 冷蔵庫のチルド室にはキャベツやピーマンや数々のキノコ類が常備されている。これらを適当に切って、炒める。だしの素と塩とお醤油たらり。そしてこの間79円の安売りでみつけた胡麻ラー油もちょりょり。この胡麻ラーさんがめちゃくちゃ美味しい。胡麻油のカドヤが出している商品。こいつをかけるとこいつに全部持って行かれるくらい、隠し味のくせにセンターをはる大物。

 

 炊飯器もレンジもないので、米はチルドのものを買っている。それを小鍋で湯煎して食べられるようにしている。小鍋に入り切らないので、数分おおきに交互に湯に浸かるようにひっくり返す。もう、慣れたもの。

 飯ができあがる。これは昼の弁当であり、朝食である。

 わたしは毎日この早朝の台所仕事と夕方の台所仕事のことばかり考えるようになっていた。冷蔵庫に今何があるのか、どいつが腐りかけているのかを見極めながら献立を考える。第一にお腹がいっぱいになること、そして身体が求めるものを作ることをモットーに考える。それがわたしの今の楽しみになっている。

 食事はお手製のダンボールテーブルで頂く。ムーミンの白い大きなハンカチをクロス代わりにかける。それだけで、わたしは、いい。

 冷蔵庫から水だしの麦茶を取り出そうとした時に、「こんな冷たいものを今日は腹に入れたはならない」という身体からの訴えをきいた。

 今日は肌寒い。長袖のパーカーを着ているくらいだ。熱い紅茶といれた。兄がインド出張のお土産に買ってくれたアッサムのグリグリとした茶葉のものをいれた。お湯を注ぐまえからいい香りがする。アッサムらしいコクのある甘い香り。

 日中はエネルギーがかなり消耗されるので、蜂蜜を入れる。

 サーモスの水筒に入れて、できあがり。

 テレビをつける。6時台は地方ニュース番組で7時台から全国放送のニュースへと番組が切り替わる。 

 こっちに来て気づいたのだけど、とにかくローカルニュース番組が多い。富良野高校野球部がもうすぐ北海道大会の決勝?に出場するのでその応援としてご当地グルメであるオムカレーを地元の洋食屋が振舞った。お腹をすかせた選手たちは勢い良くたいらげた。「オムカレーの力で甲子園に行くぞー!」のようなことを主将が叫ぶ。「がんばってほしいですね」のようなことをアナウンサーが微笑みながら言う。と、こんなような町のニュースが結構頻繁に流れる。

 わたしはこの富良野高校のわりと近所に住んでいて散歩の途中に練習している姿を見かけたことがあるので、もう既にジモティな気分で応援し始めているのに気づく。

 

 スポーツニュースも初っ端はなによりもまずファイターズの話題から。前日にサッカー代表戦があろうが、ファイターズから。

 どこの地方もこんな感じなのだろうか。地元の話題を出し惜しみせず伝えるテレビ局。関東在住のときにはなかったもっと強い、どこか魔術のような地元愛が芽生えそうである。

 朝ごはんは順調にすすむ。

 わたしは食いしん坊なうえに早食い。目の前にあるものは早く空にしなくては!いつ食えなくなるか、いつ敵がやってくるかわからない。と潜在的な動物の本能が未だに抜けていないんだと思う。

 ある程度食べ終えたところで、さて食後の甘いものは何にしようかと考えはじめる。

 朝は我慢をしない。とにかく食べたいと思ったものを食べる。朝は、許される。

 ココナッツサブレを二枚食べて、それから冷蔵庫の小枝をつまんで・・・

 そんなことをニュースを見ながら考えていると勤務先から電話が。 「今日は雨なのでお休みでお願いしまーす。リンちゃん(同居している台湾人)にも伝えてね」ときた。  雨だといつもお休みというわけではないらしいが、そうお客さんも来ないと見込んだらお休みになるらしい。    リンちゃんは眠そうな顔で起きてきた。「グッモーニン、きょうはお休みだよ」「お休み?オーウ」「まだ寝てられるよ」と言うと、リンちゃんは嬉しそうに部屋に戻っていった。  わたしはまさか休日になると思わなかったので、今、とてもうれしい気持ちでこの日記を書いている。    リンちゃんはまだ寝ている。  昨夜眠すぎて読めなかった二葉亭四迷の『浮雲』を辞書片手に丁寧に読み進めていく。  いつも20時台で寝落ちして返信出来なくなってしまう恋人とのメールを丁寧に打ち返す。どうやら今が頑張りどころらしい。  10時から近所の図書館が開く。  馬のことをもっと勉強しようと思う。馬のうんちくを覚えて、馬ともっと仲良くなりたい。お客さんに話したい。    こないだ恋人にメールで『ホームシックからかさみしくてチョコ狂になってしまった、どうしよう』と送ったら『馬も家族と引き離されて寂しくしていることでしょう。寂しい同士寄り添おう』と返ってきた。  寄り添うには、知ることから。  お勉強しましょう。  雨天休日、勉強日和。