蔓草雑話

あの話、その話、話題は蔓草のようにのびて。

 富良野に来て9日が過ぎた。明日ははじめての休日。

 わたしの勤務先は少人数というのもあってかなりアバウト。「勤務先」と表記するのもなんだか違和感を感じる。「工房」とか相撲の「部屋」とかそんな感じで表すのがちょうどいい感じがする。

 「社長」のことも「親方」と呼ぶのがしっくりくる。

 私たちは、早朝から夕暮れまでほとんどの時間を外で過ごす。

 みんながテンガロンハットやら麦わら帽子を被って、汗をかきかき、馬を調教したり、ボロを掃除したり、餌の干し草を取り替えたりしている。

 そしてお客さんが来ると、全身に付着した干し草の屑や土をはらって、ジーンズから飛び出した汚れたシャツの裾をきれいにしまおうとする。

 笑顔で「こんにちは」とあいさつして、接客をする。お客さんが帰ったら、ふいーっと一息みんなで休憩する。

 「親方」が買ってきてくれるアイスをみんなで食べながら、あーだこーだと話をする。たいていは馬の話か食べ物の話。

 新しい干し草になってから、馬たちがよくクシャミをするようになった。取り替える作業時に私もクシャミを連発しまう。

 「馬も花粉症なんかねぇ」

 そんな話をして、ああ風がきもちいい、とみんなで風に頬をよせる。

 私と同日にここに来た男の子がいる。年齢はきいていないけど、たぶん同年代。

 私は昔から同年代の男子と交友するのがちょっと苦手である。先輩とか後輩とかの男子なら自分の立場がはっきりしているから、立ち位置に困らないし、そういう話し方をしていればなんとなくオッケーな感じがしてしまう。

 なので、初日に挨拶をしたときに同年代そうな彼が目に入った途端、「しまった」と思った。

 しかもちょっと前からいるならまだ先輩扱いもできるが、同日となるともう横の交友をしなければならない。

 

 うーむ。と悩む暇などなく私も彼もそれぞれ役職を与えられて仕事を覚えるのにてんやわんやしていた。

 そして、お互い同じようにボロをとったり、干し草まみれになっているうちに自然と話せるようになっていた。

 こう言っては語弊かもしれないけれど、一緒にヨゴレ仕事をした仲ほど爽やかな交友はないかもしれない。

 汗も埃も日焼けも隠さない、小さなことなど気にしない仲になっていた。だからこそ、年齢を知らないのかもしれない。

 だけど、その子が高校時代にバイトしていたユリ畑やスイカ畑の話は知っている。朝、トラックの荷台に乗せられて、一日監視もつかない畑に放られ、適当に抜け出して友達と川で遊んだ話も知っている。

 

 とても不思議な、爽やかな交友だと思う。

 わたしたちはひと夏の家族なのだ。

 季節が過ぎれば、それぞれまた違う方へ旅立っていくのである。

 

 あすの夜、わたしが住むこのアパートに新しい仲間が増える。台湾人の女の女の子だ。この子も同じバイトをする。

 わたしは一人暮らしも初めてだったし、あすから始まる同居も初めて。そして外国人と同居も初めてである。

 いろいろ、いろいろ気になる点はあるが始まってもいないことを悩んでいても仕方がないので悩まない方向で自分を整理している。

 ただ、できるだけ気持ちよくむかえてあげたいので、明日はアパートの掃除をしようとおもう。

 そして、一緒に実家から持ってきた台湾茶を飲もうと思う。それから、わたしの好きな台湾のシンガーソングライターの盧廣仲の音楽についても話そうと思う。知っていたらいいけど。

 

 明日は休日。

 贅沢をしよう。

 歩いて数分のお寿司屋さんで海鮮丼を食べたり、富良野のソフトクリームを食べたりしよう。

 本も読もう。

 すこし昼寝もしよう。

 

 たのしい休日にしよう。