そよそよ
*
家族が大家族になった。仕事場のはなし。
この三連休を皮切りに富良野は観光シーズンを迎えました。ちょうどラベンダー畑が見頃なのでそれを目当てにいらっしゃる方が多いのです。
繁忙期となると私の他にも五人のアルバイトが入りました。私と同日に入った青年しかバイトが居なかった頃は、といってもほんの二週間前なのですが、その頃は人手が少ないのでお仕事も多く、毎日「今日も身体使ってるなぁ!うんうん!」てな感じで身も心も充実感に溢れていました。肉体労働するとご飯がきらめくように美味いのです。
私はそのきらめきご飯のためにといってもいい程毎日汗をかきかきエンヤコラと働いてきました。
しかし、人出が増えると、楽になりました。仕事量が減ってしまうのです。私は受付を担当する比重が重くなり、馬の世話仕事があまり出来なくなってしまいました。
お客さんがいつ入ってくるかわからないので、受付にほとんど張り付いていなくてはなりません。
この手は空いているのに、離れようにも離れられず掃除も干し草の交換もあまり出来なくなってしまいました。
番をしていると歩数計の数値も芳しくありません。汗もそれほどかきません。ご飯も美味しいですが、以前のようにきらめいたりしていません。
思うようにいかないのが世の常です。自分を満足させる何か良い方法がきっとあるはずです。自分で考えなくては。
*
寮から仕事場まで車で送ってくださる方の車内で軍歌が流れる。わたしたちは黙って軍歌を聴いて仕事場に向かう(不思議と言葉が出なくなる)。
こんな経験はなかなかないので、噛み締めるように軍歌を聴いている。特攻隊員の語りが入ったものはその日一日中私の耳にこびりついて離れなかった。
*
もう3日になる。馬のつなぎ場に菫色の小さな蝶々が遊びに来ている。朝、来て、八時の水やりをしようと水を汲んでいると、どこからかやってきて、そよそよと着いてくる。
まだ眠たそうな馬たちのまわりをそよそよとご機嫌に飛んでいる。馬たちは虫が嫌いだが、この菫色の蝶々に関しては了解している節がある。
ちょっと神経質なサラブレッドの白馬も鼻の辺りに飛ばれているのに払い除けようともしなかった。蝶々はうれしそうに飛んでいるのだ。
白馬と菫色の蝶々のツーショットはディズニー映画のよう。
ルナールの『博物誌』が好きだ。ルナールの生き物への眼差しが好きだ。「動物めっちゃ好きです!」っていう人は正直苦手だと最近気づいた。
ルナールの眼差しがちょうど好い。って最近改めて思う。