蔓草雑話

あの話、その話、話題は蔓草のようにのびて。

ある日の昼下がり

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 富良野は快晴がつづいています。

 朝は長袖パーカーを羽織、温かい紅茶が恋しいほど涼しい、というか肌寒い。なんて本州の皆様には信じられないかもしれませんが、これが北海道の夏です。

 八時くらいには陽もまぶしくなり平均して25度、「今日は暑いねぇ」なんて言いあう日でも28度くらいです。湿度は50%くらい、風もここちよく吹き、洗濯物もよく乾きます。クーラーどころか扇風機も団扇も必要ありません。

 素敵でしょう。

 もう、夏の埼玉なんぞにゃ戻れない身体にしまっているかもしれません。

 そんなきもちのよい晴れた午後。とってもいい天気だというのにお客さんは一向に来ません。

 わたしはカメラをぶら下げてぐるーっと馬小屋や牧草地を歩いてまわります。

 くすみのない澄んだ青空と白い雲、生い茂る緑。それらが合わさってできる木漏れ日。わたしはコローの風景画を思い出します。

 「よくあるきれいな風景」といっちゃあ、そうなんですが。やはり牧歌的な風景というのは何度でもどんな時代でも人の心をあやしてくれます。屈託の無い赤子に戻れるような気がします。

 実際にわたしの心はどんどん純化されているんじゃないかと思います。

 馬小屋を覗くとシロとクロのぶち柄の「ごまふく」という名の馬が男三人に取り押さえられていました。

 男三人を仮に「さーさん」「くーさん」「うーくん」と呼ぶことにしましょう。

 「さーさん」は長年馬の調教をしてきた馬のプロです。どんなわけがあったのか定かではありませんが、わたしよりも少し後にここに勤務し始めました。さーさんは今ごまふくを一人前の乗用馬にすべく毎日調教しています。余談ですが、さーさんは今前歯が抜けてしまっていて半分何を喋っているのか聞き取れません。本人も自分が何を喋っているのかよく判らないと言っています。そんな状況ですが、毎日一緒にいると不思議なもので、だんだん何を伝えているのかが判ってくるのです。さーさんはよく文句らしいことを言いますが、そんな性格のうらにとても優しい部分があるのも判ってきます。

 

 「くーさん」はここで長く働いています。くーさんは馬だけでなく色々な狩猟や釣りにも詳しい人です。いつも馬小屋でお仕事をしているのであまり一緒にはいませんが、時々寮から仕事場まで車で送ってくださいます。前回日記で書いた軍歌が車内で流れる、という方はくーさんです。馬が柵から飛び出して逃げてしまった時に、俊敏にロープでつかまえていました。「あぶなかったなぁー。冷や汗かいちまった」と言っていましたが顔は笑っていました。

 「うーくん」はわたしと同じ日に入りました。先日うーくんがわたしの二つ年下だということが判明しました。うーくんは自分が最年少であることにちょっと不服そうな感じではありましたが、今ではなにも気にすることなく私を同い年か年下のように扱いっているような気がします。うーくんはなんとなく平成生まれの匂いがしません。お昼ごはんはリンゴを丸齧り、休憩中はカバーのとれた文庫を読み、犬のブランとよく相撲をとっています。

平成男子のチャラさではなく昭和男子のヤンチャさを感じます。

 そんな男三人に取り押さえられたごまふく。アパルーサという馬種でさーさん曰く「頭のイイ品種だで。芸仕込めば大道芸もできるぞ」

 男三人のことを書いたところで腹の減り具合が限界を達しました。つづきは夕飯後。。