旅列車
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きのう、新幹線で新青森まで向かう途中、新幹線は仙台や盛岡に停車しました。
「仙台」
ときいて、私はハッとして車窓から街並みを眺めました。日が落ちて、群青色に染まった街に他の街と同じように灯りが幾つも灯っています。とてもここや、この先であんな大きな震災が起こっただなんて想像ができないくらい普通の、日常の景色でした。
暗闇の分、あまりよく見えていなかったのかもしれないけれど。私はまだ震災がよくわかっていないし、見たくないんだと思いました。こんなに近くに来たのに、絶対的な哀しみや苦しみに目をそらしてしまうのです。
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青森で寝台列車に乗り継ぐまで少し時間があったので、地元のものでも食べようと駅前を歩きました。まぶしく灯りがともっているのは東京でも見かけるチェーン店ばかり。私は旅行に行ったときは個人経営のお店になるべく行くようにしているのだけど、そういうお店は閉まっていました。
街はどこか寂しく、閑散としています。一際まぶしい吉野家に入りました。豚丼が甘くなっていました。いつからですか?
なにか一つくらいその土地のものを手に入れようと、コンビニに向かいました。ありました。林檎の土産物。林檎パイ、林檎をフリーズドライしたやつ、林檎ジュース。。しかし、これらはついこないだニューデイズの物産コーナーで見たし、買ったことのあるもの。他に何かないかと見渡すとどうやら青森はカシスも特産品みたいです。私はカシスのゼリーを買うことにしました。
寝台急行はまなすに乗り、備え付けの浴衣を着、整ったところでカシスゼリーを食べ始めました。アルコールは入っていないけどなんだかお酒っぽい風味。カシスの果実がほんのり薬っぽくて、独り旅の感傷に浸るにはもってこいの味でした。すごく東北っぽいひとときだと思いました。
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寝台列車で読書しつつ寝落ちする。というのが憧れだったので、しました。
リュックサックには2冊本を用意していました。(トランクにはあと5冊あります)一つはトーベ・ヤンソン短篇集。もう一つは澁澤龍彦の『妖人奇人館』。新幹線でトーベ・ヤンソンは読んだので、澁澤龍彦を読みました。
18世紀の放蕩貴族が主宰した秘密クラブや大革命前のパリに実在した女装した外交官について知ることができました。私はこういう歴史ゴシップみたいなものが大好物です。高貴な地位の人たちが下衆なほどいいです。
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4時頃、ようやく青函トンネルを抜けていることがなんとなく判り、カーテンをちらりと開けると青白い世界が広がっていました。靄がかった港。あれは港だったのか、工場地帯だったのか定かではありませんが、さみしい、と思いました。
いつさみしい景色が途切れるか見続けようと思いました。なかなか途切れません。さみしい景色の次はまたさみしい景色。
私はまたうとうとして、眠りに落ちました。