【金沢旅帖4】兼六園の助さん格さん
ギャラリーSLANTを出た頃、私は腹が減っていた。
時刻は正午すぎ。
SLANTから北、すぐ近くには日本三大名園の一つでもある兼六園がある。南に教えてくださった洋食屋さんがある。
すぐにでも洋食屋さんのハントンライスとやらを食べたい気持ちだったけど、
そのときは一年の中でもベスト5に入るくらい気持ちのよい晴天で、絶好の散策日和だった。
こんなときに写真を撮らなくてどうする。
いつもなら深く考えもせず当然のように「花より団子」の私も、旅先となると食欲よりもその瞬間の画を優先させていた。
こんな晴れた日の兼六園、もう二度と見れないかもしれない。
一時間後もし天候が変わったら、私は即刻ブルーだよ。
(ブルーってもう死語かなあ)
私の足は兼六園へ向かった。
平日だというのに兼六園は人で賑わっていた。
それも納得。庭園の木々達は皆うれしそうに体をのばしている。
「春がきた 春がきた」
ちいさな命の歓喜だ。
人間のなかにもきっと同じような歓びが流れているのだろう。
だから誘われるようにして、花を見に行くのかもしれない。
名園だというのに、庭の造りにはほとんど目もくれず、植物たちばかりに目を奪われ、撮っていた。
ほんとうに、春の植物たちは歓びに満ち満ちている。
植物達がこれだけ嬉しさを爆発させることができるのは、兼六園を支える人たちの腕と愛情があるからなんだろうなぁ。
「大木は立派な支え木がないと生きていけないんだねぇ こりゃあ支えてる方がすげえ力だ」
巨大な松の木の下を通りがかった老夫婦のご主人がそう言っていた。
わたしはそのときハッとした。
そうか、そうだよね、そのとおりです、おとうさん。
なんてかっこいいんだろう、この支え木。
わたしはそれまで堂々とした風格の松の木が好きで、まるで木の世界のお殿様のように崇めていたのだけど、
おとうさんのその一言で一気に家来推しになってしまった。
この支え木なんて助さん格さんみたい。
私はなんだかうれしくてたまらなくなっていた。
新しい発見!できた!
これからどこかで大木を見るとき、そのとなりで踏ん張る支え木の雄姿をぜひ見て欲しいです。