菫色の時間
新宿御苑をまわった後、損保ジャパン東郷青児美術館の「アンリ・ル・シダネル展 フランス ジェルブロワの風」を観に行った。
シダネルは19世紀末から20世紀前半ごろにフランスで活躍した画家。生涯ヨーロッパの片田舎とくにフランス北方のジェルブロワという地方を愛した。画家の代表的なシリーズに「テーブルシリーズ」がある。無人のテーブルの在る風景を何枚も描いている。無人であるのに、そこに人が息づいている温もりが伝わってくる。
『青いテーブル』
私はシダネルの描く夕と朝のあいだが好きになった。毎夕訪れる菫色の時間帯。ひとり街や村を歩いて、見えた、月明かりと家々の小さな灯りに画家は何を想ったんだろう。
『離れ家』
『運河』
村や街も日中人に労働させられている。人間が家で休息するこの時間帯だけは村や街も自分たちだけのものになる。
私の勝手な想像だと、大好きな村のへの「おつかれさま、今日もありがとう」という労いと感謝の気持ちがあったんじゃないかなあと思う。村と画家を結びつけるとくべつな空間がこの菫色の時間帯だったんじゃないか。
画家と村の逢い引きみたいだ。
そういう経験は自分にもあったような気が微かにする。誰もいない街中で街と自分だけが通じ合う瞬間。